「李好のヌシ」
当店で開店時から売れずに店頭にある商品を当店の「ヌシ」としてご紹介いたします。
売れていないからと言ってつまらないものだということではなく、存在に気付いてもらっていなかったり、そもそもそれが何なのか分からずにスルーされて来たような商品を、ここでご紹介・ご説明しおります。
よく他店のホームページ等の新着商品や自慢の商品の紹介などとは、趣向を変えた形での商品紹介にしています。
李好のヌシ 第二話「베개(ぺゲ) 枕」
既に「お知らせ」欄でご報告したとおり、今月も21日の東寺・弘法市と25日の北野天満宮・天神市は新型コロナ禍のため開催中止が決定しましたね。これで4月から5か月連続の開催中止です。新型コロナ禍が、もう半年もの間、我々人類の日常生活に大きな影響を与えてきていますが、今年の初めにこんな事態を誰が予想したでしょうか。
先日の五山送り火も、新型コロナウイルスの感染予防策として、観光客の密集を避けるため、規模を大幅に縮小して行われましたね。例年は「大」「妙法」「船形」「左大文字」「鳥居形」などの文字や図形が浮かび上がるのですが、各山とも点火する場所が減らされたため、点々と火がともる形となりましたね。送り火は太平洋戦争で1943~45年に中止されたことがあったようですが、縮小して行なわれたのは、これが初めてのことです。でもまあ、火をともして先祖の霊を送るのが送り火の目的ですから、文字や図形が表せなくても十分にその目的は果たせたと思います。
この数日前の8日夜には、大文字をともす如意ケ嶽でREDライトを使ったと思われる「大」の形がライトアップされるという「いたずら」もありました。これは到底「いたずら」で許されることではありませんし、保存会の人たちや多くの京都市民は憤りを感じたと思います。しかしながら、私は過去に、個人的にもっと憤りを感じた送り火がありました。 2000年12月31日つまり20世紀最後の大晦日に「21世紀京都幕開け記念行事」として「ミレニアム送り火」と題され真冬に五山の送り火が行われたことがありました。確か、鞍馬の火祭もこの時行われたと記憶しています。市民からの要望もあってのことだったようですが、当時テレビの中継を観て、とても不愉快でした。
またしても前置きが長くなってしまいましたが、李好のヌシ 第二話は「베개(ペゲ)」韓国の伝統枕をご紹介いたします。現在、店内には「베개(ペゲ)」枕が6個あります。開店当初はもう3個あったのですが、韓国の業者に売ってしまいました。なので、お客様にご購入いただいたことはありません。
韓国の伝統的な枕には、1枚目写真の向かって右の2つのように木製の派手な装飾の見られないものもありますが、両端の枕飾の部分を베갯모(ペゲンモ)と言いますが、そちらに装飾が施されたものが多く見られます。最も多いのが刺繍が施されたものでしょう。ソウルの踏十里や長安坪の民俗品を扱う骨董店に行ってみると、美しい刺繍の施された枕が大量に積まれているのを見ることができます。
現在、当店にある枕は、そのような枕飾の部分が刺繍のものではなく、麦藁細工が施されたものです。私がコレクターの時に麦藁細工のものだけを集めた結果です。刺繍の枕に比べ麦藁細工の物は数が少なく貴重です。当然お値段の方も高くなりますね。枕飾の板部分に色を付けた麦藁を貼り付け、花や蝶、おめでたい「福」や「壽」の文字などが描かれています。
1枚目写真の真ん中の2点は、麦藁細工が両端の枕飾部分だけでなく、全体に施されている大変貴重なものです。特に3枚目写真の物は枕飾部分に「福」「壽」の文字が描かれ、その他の面には幾何学的な模様が施されています。残念ながら、麦藁の剥がれてしまっている部分が多いのですが、文字で見て下の部分の面は、ほぼそのままの状態で残っています。このタイプの物は、類例を見たことがありません。
写真1枚目の右の木製2点のうち、5枚目写真の物は、中に何か細い紙のような物が入っていて、振るとサラサラという音がします。これは香草か何かが入っているようです。側面にスリット(切込み)が入っているので、そこから香りが出るようにしたのでしょう。今は全く香りはしませんが。ちなみに、こちらは朝鮮時代のものではなく、日本の植民地時代(戦前)以降のものだと思います。
もう1つの木枠だけの小さな枕は、6枚目写真のように小さい壺などに花一輪を差して飾ってみてはどうでしょうか。また、小さな金銅仏等をお持ちでしたら、それを飾ってみてもいいでしょう。この手の枕には、枠だけの物の他に、枠の中に欄間のように彫り物が施されたものもあります。
韓国の枕の中には石か何かの木の実などが入っており、振るとカラカラと音がします。これは、目覚めた時にそれを知らせるために鳴らすためのものだと言われています。
枕飾の装飾には刺繍と麦藁の他に、高級になりますが螺鈿や華角張(牛の角を薄く切ってそれを半透明にし、その裏面に顔料で絵を描き、これを貼り付けて装飾したもので李朝独特の工芸品。糸巻、物差し、櫛、筆筒、箪笥等にその技法が見られる)の物もあります。
現在、韓国でこれら枕を収集する人には、枕として使うという人はまずいないと思います。そのまま部屋の装飾品とするか、多くは枕飾の部分だけをはずして額装にして飾るなどして楽しんでいるようです。