「李好のヌシ」
当店で開店時から売れずに店頭にある商品を当店の「ヌシ」としてご紹介いたします。
売れていないからと言ってつまらないものだということではなく、存在に気付いてもらっていなかったり、そもそもそれが何なのか分からずにスルーされて来たような商品を、ここでご紹介・ご説明しおります。
よく他店のホームページ等の新着商品や自慢の商品の紹介などとは、趣向を変えた形での商品紹介にしています。
李好のヌシ 第四話 酒器扁「アジのいい堅手徳利」
来週21日の東寺・弘法市、25日の北野天満宮・天神市は、今月も共に開催中止が決定しております。
晩酌も、もう少し先まではできませんので、久しぶりにヌシ様にご登場いただくことになりました(笑)。
当店は、李朝の骨董品の中でも酒器を得意分野としているのですが、盃に比べると徳利の売れ行きがあまりよくありません。まあ、盃に比べて徳利はお値段の方もお高いので、仕方がないところではありますが、本当に値段の張るものは仕方が無いにしても、これどうして売れないかなあ?と開店当初から思っているうちに、ヌシ化してしまった徳利というのがあります。それが写真の堅手徳利です。高さが14.5cm、容量が2合をほんの少し超える程度と少々大振りではありますが、独酌用としてお使いいただけるサイズです。実際入手したての頃、基本私はこれでお代わりして飲んでましたから。今はダメですけどね(笑)。よく育っており、胴部の広範囲にいい感じにシミが出ていい味わいになっています。
この徳利の特徴として、口造りの独特さが挙げられます。李朝初期の徳利というと、ほぼラッパ口のものですが、この徳利の口は、一般的に言う盤口のように口が外側に開いてはおらず、抱き込んだような形になっていますね。同時代の鶏龍山の徳利の中で、酒徳利として使えるような小さめのサイズの物には、このような口造りの物が多いですね。
この徳利を入手したのは、もう今から20年以上も前の90年末、私がまだソウル在住の頃に黄鶴洞のもう今は無くなってしまったお店で見つけたものでした。その時のことで覚えているのは、もう1点初期堅手の徳利があって、2点買ったら値引きしてくれるように店の主人が言ったのですが、そうお安いお値段でもなかったので、これ一つだけを購入したのでした。もう一つの徳利はこれよりも小ぶりで、口造りはよくあるラッパ口の物でした。独酌用の徳利としては、そちらの方が適性があったのですが、口造りの珍しさと当時の私の酒量から、この徳利を選択したのでした(笑)。その時点では、全く酒徳利としては未使用の状態で、全くシミの無い堅手の徳利でした。
入手してしばらくは、毎晩のようにこれを使って飲んでいましたが、やはり新しい徳利を入手すると段々と出番が少なくなり、やがて箱に仕舞ったまま数年の間、出番の無い状態が続いたことがありました。そんなある日、自宅で酒器の確認をしていた時にこの徳利の箱を目にし、懐かしい気持ちで箱から取り出してみると、なんと!このような見事なシミが出ていたではないですか。いやあ!びっくりでした。
酒器を育てようという時、ある程度の期間使い倒すことが必要ですが、その後しばらくの期間、箱に仕舞って休ませておくと、このようにいいアジに育ってくれることがあります。箱の無い物の場合、棚に仕舞っておくのでもよいと思います。ただ、その際にお気を付けいただきたいのは、器をちゃんときれいに洗ってから、仕舞うようにしていただくということです。酒器に早く味を付けたい、早く育ってほしいという思いから、器を洗わずに紙などで拭いただけにする人がいるようです。そういった状態で長期間酒器を箱などに仕舞っておくと、カビが生えてしまいますので、お気を付けください。
今回のヌシ様ですが、穴も大きくお酒も出やすいですし、形状も丸っこくて愛らしいで徳利です。まだしばらく、ヌシ様として留まられるようでしたら、久しぶりに一度自宅に持ち帰って、晩酌してみようかとも考えています(笑)。
高台に1箇所欠けの直しがあります。